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高松高等裁判所 昭和48年(う)268号 判決 1973年11月14日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

<前略>

一検察官の被告人穴吹員善に対する控訴趣意について。

所論は要するに、原判決は罪となるべき事実として本件公訴事実どおりの銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実を認定したうえ、「被告人を懲役八月に処する。未決勾留日数三〇日を右刑に算入する。」旨言い渡したが、本件記録に基づき、被告人に対する身柄拘束の状況をみると、被告人は、「ほか二名と共謀のうえ、昭和四八年一月一六日午後九時四五分ころ、坂出市室町二丁目五番七号佐々木組坂出支部事務所において、殺意をもつて、所携の日本刀などで同組々員竹田政彦に斬りつけたが、同人がその場から逃げたため、同人に対し全治約一箇月半を要する左肩、左前腕割創等の傷害を与えたにとどまり殺害の目的を遂げなかつた。」という殺人未遂の事実により、同月一七日逮捕され、さらに右事実により同月一九日勾留されたが、捜査の結果右殺人未遂の事実については起訴されず、これと併合罪の関係に立つ同一日時、場所におけるあいくちの不法所持という銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実により同年二月七日公訴が提起され、いわゆる「勾留中求令状」の形式で即日原判決判示事実と同一の本件公訴事実について勾留され、その後保釈許可決定により同年二月二八日釈放されるまで引き続き勾留されていたものである。以上の事実によれば、前記不起訴となつた殺人未遂被疑事件について発せられた勾留状により勾留された未決勾留日数は一九日間であり、また、本件起訴にかかる銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実につき発せられた勾留状により勾留された未決勾留日数は二二日間にすぎないことが明らかである。

しかるに原判決は、不起訴となつた殺人未遂被疑事件について発せられた勾留状による勾留日数を、本件銃砲刀剣類所持等取締法違反の刑に算入し得るとの独自の見解から、右未決勾留日数二二日を八日間超過した、三〇日の未決勾留日数を被告人に対する右刑に算入しており、右は刑法二一条の解釈適用を誤つたものというべく、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、到底破棄を免れない、というのである。

よつて検討するに、被告人に対する身柄拘束の状況が、論旨主張のとおりであることは、記録に徴し明らかである。そこで問題は起訴されなかつた殺人未遂被疑事件につき発せられた勾留状による勾留日数を、これと併合罪の関係にある本件銃砲刀剣類所持等取締法違反罪の刑に算入し得るかにかぎられることになる。

おもうに勾留については事件単位の考え方で問題を処理するのが、多くの場合被告人の利益を保障し、結果も妥当である。そして刑法二一条の解釈についても、算入せらるべき未決勾留日数は、原則としてその本刑の科せられる罪について発せられた勾留状に基づくものであることを要するものというべきである。しかしこの原則をあくまで貫くときは、例えば勾留状を発せられた甲公訴事実(事件)と勾留状の発せられていない乙公訴事実(事件)とが併合審理され、甲事件の勾留が乙事件のためにも被告人の身柄確保の役目を果し、事実上乙事件を含む併合事件の審判のため、被告人の公判への出頭を確保し、罪証隠滅を防止するという勾留の効果を発揮しており、このように事実上の効果が乙事件にも及んでいるがために、乙事件についても、勾留の要件が具備していたにもかかわらず、あえて同事件につき勾留がなされていない、というような場合においても、若しその甲事件が無罪、免訴等刑の言渡なくして終るときは、それまで被告人の受けた未決勾留は、これを本刑に算入する途なく、かくては未決勾留を捜査又は審判のためやむを得ない必要悪とし、これによる被告人の苦痛を未決勾留日数の本刑算入という制度で救済し、その衡平を計ろうという刑法二一条の立法趣旨にも添わない結果となるので、関係のない他事件の未決勾留を算入することはこれを認め得ないにしても、右のように甲事件に基づく未決勾留と乙事件とが、公判における弁論の併合という手続上明確な事実を介して密接に結びつき、その勾留が乙事件の審理にも事実上役立つている、というような場合には、例外的に甲事件についての未決勾留日数を乙事件の刑に算入してよいのではないかと考えられるのである。

論旨主張の最高裁判所第三小法廷昭和三〇年一二月二六日の判決は、右のような場合につき、「裁判所が、同一被告人に対する数個の公訴事実を併合して審理する場合には、無罪とした公訴事実につき発せられた勾留状の執行により生じた未決勾留日数を、他の有罪とした公訴事実の本刑に算入することができるものと解するを相当とする。」旨を宣言し、他事件の未決勾留日数の算入を例外的に認めたのである。

然らば右のような例外的措置は、論旨主張のように、併合審理の場合にかぎつて認められるにすぎないものであろうか。

おもうに、右のような場合に、甲事件についての未決勾留日数を乙事件の刑に算入することが認められる理由は、甲事件につき発せられた勾留状による勾留は、法律の正面からいえばあくまで甲事件のみの勾留であり、(従つて甲事件が無罪となれば、これと併合審理された乙事件につき懲役刑の実刑が言渡されても、勾留は当然その効力を失う。)乙事件はこれと無関係であるが、前記のように甲事件と乙事件とが併合審理されたことを契機として、甲事件についての未決勾留が、乙事件とも緊密に関連し、実際的効果の面で乙事件のための勾留でもあるかの如く作用しているという事実状態が発生し、甲事件につき、算入すべき刑が言渡されないならば、乙事件につき言渡された刑にその未決勾留日数を算入するのが妥当である、ということによるものと考えられるのであり、重要なのは右のような事実状態であり、その事実状態を発生させる契機である併合審理ではない、というべきである。若しそうだとするならば、他事件についての未決勾留日数の算入を認める場合を、併合審理の場合に限る必要はなく、その他の場合であつても、右に匹敵する事実状態にある場合には、これを許容して差支えなく、これを許したからといつて前記最高裁判決に反せず、その類推というべきである。(論旨がいうように右最高裁判決が、併合審理手続以外の場における例外を否定するものとすると、併合審理の場合実際に算入し得る未決勾留日数は、併合決定以後の勾留日数に限定せざるを得ないのではないかと考えられる。しかし公判審理中の別件勾留を利用して余罪を捜査して追起訴し、両事件を併合審理し、しかも右追起訴を予定して公判が延期され、併合決定前の勾留が長くなつているような場合、右併合決定前の未決勾留日数を算入し得ないとするのは不都合であり、結局併合決定前の未決勾留日数も算入し得るという解釈を相当とする。若しそうだとするならば勾留された事件との併合審理という要件は、別件の未決勾留日数を算入し得る唯一絶対の要件であると解することはできないであろう。)

ただここで考えなければならないのは、併合審理という明確な基準なしにこの例外を拡張することは、その限界をあいまいにし不当ではないかということであり、この欠点を避けるためには、この例外は、他事件の未決勾留と刑を科せられた公訴事実との前記のような緊密な関係が、併合審理の場合同様、極めて明白であつて、その点を明らかにするため特別の立証を必要としない場合に限るとしなければならないものと考えられる。

ところでこれを本件について検討するに、関係証拠によると、被告人は原判示にあるとおり暴力団「銀竜会」の組員で、昭和四八年一月一六日組長辻吉男が、暴力団「佐々木組坂出支部」の支部長中村忠司に殴り込みをかけるべく、脇差一振を携えて同支部の事務所に乗り込んだ際、中川良雄と共に、各自短刀、あいくち等を携帯のうえこれに同道し(被告人はあいくちを携帯)、右事務所内に押し入り、被告人は、同所に居合わせた井筒正義に立ち向い、攻撃をしかけたが逃げられ、一方辻および中川は、各所携の脇差、短刀で居合わせた竹田政彦に斬りつけ、あるいは突き刺し、よつて同人に対し加療約一箇月半の傷害を負わせたものであるところ、警察は被告人に対し、「被告人は、右辻、中川の両名と共謀のうえ、殺意をもつて日本刀で竹田政彦に斬りつけたが、同人に対し全治約一箇月半を要する傷害を与えたにとどまり殺害の目的を逃げなかつた。」との殺人未遂の嫌疑をかけ、前記のように被告人を逮捕勾留して捜査を遂げたが、結局被告人と辻、中川らとの共謀の点が十分に明らかとならず、検察官は、殺人未遂事件に対する捜査の結果、自ら明らかとなつた、本件銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実(殺人未遂の容疑と同一の日時場所におけるあいくちの不法所持)のみを起訴したものであることが認められる。

以上のとおりであるから、法律的には、「刀剣類を用いて相手方に斬りつけ殺害しようとしたが、傷害を負わせたに止まり殺害の目的を遂げなかつた」との殺人未遂の事実と、その際の刀剣類の不法所持の事実とは、併合罪の関係に立ち、別個のものであるとしても、事件を法律的に構成する以前の社会的事実としては、両者は全く一個の事実であり、捜査は必然的にその全体に及び、殺人未遂罪についての捜査は、そのまま刀剣類不法所持の嫌疑についての捜査となつていたのであるから(被告人の殺人の故意ないし他との共謀の有無を捜査することはとりもなおさずあいくち不法所持の動機を明らかにすることであり、被告人自身そのあいくちを使用して相手を斬つたかどうかを捜査することは、あいくち不法所持の態様を明らかにすることである。)、殺人未遂罪に基づく勾留と本件銃砲刀剣類所持等取締法違反罪の捜査との間には極めて緊密な関係があるものといわなければならない。

以上のとおり本件は、前記最高裁判決の場合以上に、起訴されなかつた殺人未遂罪についての勾留を、本件の刑に算入すべき実質的理由があるのであり、右のように緊密な関係にあることは、本件記録にあらわれた殺人未遂罪についての逮捕状、勾留状の被疑事実と本件の起訴状の公訴事実との比較、並びに、本件の証拠として提出された被告人の司法警察員および検察官に対する各供述調書は形式上すべて殺人未遂罪についてのものではあるが、その中にあいくち不法所持の事実並びにその情状を明らかにする資料が具備されており、銃砲刀剣類所持等取締法違反罪のみについての被告人の供述調書が別個に存しないこと、等に徴し極めて明瞭であり、この点を明らかにするための立証を格別必要としない。

以上の次第であるから、本件は例外的に起訴されなかつた他事件の未決勾留日数を起訴された別の事件の刑に算入できる場合であり、右と同旨にでた原判決には法令の解釈適用を誤つた違法はない。従つて検察官の本件控訴は理由がない。

(なお検察官の引用する高裁判例はいずれも本件と事案を異にし適切でない。)

(その余の判決理由は省略する。)

(目黒太郎 宮崎順平 滝口功)

〔検察官の控訴趣意〕

原判決には、法令の解釈適用に誤りがあり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである。

すなわち、原判決は、罪となるべき事実として本件公訴事実どおりの銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実を認定したうえ、「被告人を懲役八月に処する。未決勾留日数三〇日を右刑に算入する。」旨を言い渡したが、右は、未決勾留日数の本刑算入に関し、最高裁判所・高等裁判所の判例に違反し、本来未決勾留日数として本刑に算入しえない他事件についての未決勾留日数を本刑に算入したものであつて、刑法第二一条の解釈適用を誤つたものというべく、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、到底破棄を免れないものと思料する。

以下その理由を述べる。

一 本件記録に基づき、被告人に対する身柄拘束の状況をみると、被告人は、「ほか二名と共謀のうえ、昭和四八年一月一六日午後九時四五分ころ、坂出市室町二丁目五番七号佐々木組坂出支部事務所において、殺意をもつて、所携の日本刀などで同組々員竹田政彦に斬りつけたが、同人がその場から逃げたため同人に対し全治約一カ月半を要する左肩、左前腕割創等の傷害を与えたにとどまり殺害の目的を遂げなかつた。」という殺人未遂の事実により、同月一七日逮捕され、さらに右事実により同月一九日勾留されたが(記録八一五丁表ないし八一九丁裏、逮捕状、勾留状)、捜査の結果右殺人未遂の事実については起訴されず、これと併合罪の関係に立つ同一日時、場所におけるあいくちの不法所持という銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実により同年二月七日公訴が提起され(記録八四丁表ないし八六丁表、昭和四八年二月七日付起訴状)、いわゆる「勾留中求令状」の形式で即日原判決判示事実と同一の本件公訴事実について勾留され(記録八二〇丁表ないし八二五丁表、勾留状)、その後保釈許可決定により同年二月二八日釈放されるまで(記録八六九丁、保釈許可決定、記録八七四丁、釈放通知書)、引き続き勾留されていたものである。以上の事実によれば、前記不起訴となつた殺人未遂被疑事件について発せられた勾留状により勾留された未決勾留日数は昭和四八年一月一九日から同年二月六日までの一九日間であり、また、本件起訴にかかる銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実について発せられた勾留状により勾留された未決勾留日数は同年二月七日から同月二八日までの二二日間にすぎないことが明らかである。

二 しかるに、原判決は前記のとおり銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実について発せられた勾留状により勾留された未決勾留日数二二日を超え、不起訴とされた殺人未遂被疑事件について発せられた勾留状により勾留された未決勾留日数一九日のうちの八日を加えた三〇日を本刑に算入する旨を言い渡し、その理由として、要するに「起訴前の勾留の被疑事実である殺人未遂の事実と起訴にかかる刀剣類不法所持の事実は形式的には別個の事実であつて、両者は併合罪の関係に立つと解せられるが、しかし右両事実は、共に同一の日時場所における犯行であり、右殺人未遂の事実は刀剣類不法所持の一態様ともみることができるのであるから自然的行為としては一個の行為とみられる。このような関係から殺人未遂の捜査は即刀剣類不法所持の捜査となる面があつたのであるから、右殺人未遂の嫌疑による勾留の当初から、同嫌疑についての取調べと合わせて刀剣類不法所持についての取調べのなされることが予定されていたとみることができ、捜査の当初から両者混然一体となつた捜査がなされた末、刀剣類不法所持の点のみが起訴されるに至つたことが認められる。したがつて実質的には右殺人未遂の勾留は起訴された事実そのものについての勾留でもあつたということができる。そこで一般的には起訴されない被疑事実について発せられた勾留状による未決勾留の日数は、これと別個の起訴された罪の本刑には算入することができないと解することが訴訟手続中に煩雑さと混乱を不当に持ち込まないための解釈として相当であるとしても、本件の場合のように、起訴された事実と起訴されなかつた勾留の基礎となつた事実との関係がきわめて密接で、自然的事実としては両者が不可分一体の関係にあるため、現実の問題として、事件処理の手続が別々に進められるということが実際上考えられないというような場合には、捜査の当初から同時捜査、同時審判の事実上の保障があるということができるから、このような場合には、起訴されなかつた被疑事実に基づく勾留を起訴された罪の本刑に算入しうることとしても、前示のような支障は生じないと考えられるので、起訴されなかつた被疑事実について発せられた勾留状による起訴前の未決勾留日数を起訴された罪の本刑に算入することは許されると解するのが相当である。」旨説示している。

三 しかしながら、未決勾留日数の本刑算入を規定した刑法第二一条にいう本刑とは当該被告事件についてなされた宣告刑を指し、これに算入しうる未決勾留日数とは、原則として本刑の科せられる罪について発せられた勾留状に基づき勾留された日数をいうのであるから、右宣告刑に関係のない別個の事件における未決勾留日数は本刑に算入しえないと解すべきであり(同旨、昭和三〇年五月三〇日東京高等裁判所第七刑事部判決、高等裁判所刑事裁判特報昭和三〇年度二巻一三号六四一頁以下)、この理は起訴されない被疑事実について発せられた勾留状による未決勾留は、たとえそれが起訴された罪の捜査取調につき実質上利用されたとしても、別異に解すべきいわれはないから、起訴された罪の本刑に算入しえないものである(同旨、昭和四七年二月一五日高松高等裁判所第三部判決、同高等裁判所刑事判決速報三六五、昭和四四年一〇月一三日東京高等裁判所第九刑事部判決、高等裁判所判例集二二巻五号七四七頁以下、昭和四四年七月一〇日東京高等裁判所第四刑事部判決、東京高等裁判所刑事裁判速報一七四二号三四頁以下、昭和三五年一一月一六日札幌高等裁判所第三部判決、高等裁判所判例集一三巻八号六三四頁以下)。しかして右原則に対する唯一の例外として最高裁判所は「数個の公訴事実について併合審理をするかぎり、一個の公訴事実による適法な勾留の効果が、被告人の身柄につき他の公訴事実についても及ぶことは当然であるから、裁判所が同一被告人に対する数個の公訴事実を併合して審理する場合には、無罪とした公訴事実による適法な勾留日数は他の有罪とした公訴事実の勾留日数として計算できるものと解するを相当とする。」(昭和三〇年一二月二六日最高裁判所第三小法廷判決、最高裁判所刑事判例集九巻一四号二九九六頁以下)としているが、もとより右判決は判示自体に照らし起訴されない被疑事実について発せられた勾留状による未決勾留日数を起訴された罪の本刑に算入することまでも認めようとする趣旨であるとは到底解されず、かえつて併合審理手続以外の場における例外を否定するものといえよう。

しかるに原判決は、右殺人未遂と刀剣類不法所持の各事実は形式的には別個であるが、実質的には同一であるから不起訴となつた右殺人未遂の勾留は実質的には起訴された刀剣類不法所持の事実に基づく勾留と同視しうるとの独自の見解をとり、起訴されなかつた殺人未遂の被疑事実について発せられた勾留状による起訴前の未決勾留の日数を起訴された刀剣類不法所持の罪の本刑に算入しうるとしたのである。しかしながら、右両事実は原判決も認めているとおり明らかに併合罪というべきであるから(昭和二六年二月二七日最高裁判所第三小法廷判決、最高裁判所判例集五巻三号四六六頁以下、昭和三一年七月四日最高裁判所第二小法廷決定、最高裁判所裁判集刑事一一四、七五頁以下参照)、その間に法律上いわゆる事実の同一性を認めることはできない。さればこそ、本件起訴に当り刀剣類不法所持の事実について新たな勾留状が発付されたのであつて、起訴後の勾留は起訴前の勾留とは全く別個の事実による勾留であることが一見して明らかであるばかりでなく、原判決のいう両事実の同時捜査、同時審判の事実上の保障があるからという論拠のごときも、前掲一連の高等裁判所判例が起訴前の未決勾留日数を起訴された罪の本刑に算入しうるかどうかを決するにあたり、起訴の前後の勾留事実が同一であるかどうかを唯一の基準としている、その趣旨に照らせば到底肯認することができない。したがつて結局原判決の右措置はこれらの判例に違反し、刑法第二一条の解釈適用を誤つた違法のものといわなければならない。

四 以上の論旨から被告人に対し、本刑に算入しうる未決勾留日数は、銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実につき発せられる勾留状により勾留された二二日間を限度とすべきであることが明瞭であるにもかかわらず、起訴されていない殺人未遂の事実についての勾留状による未決勾留日数をも本刑に算入しうるとの独自の見解のもとに、右二二日を超えて殺人未遂の事実による勾留日数の一部をも本刑に算入した原判決は、明らかに未決勾留日数の本刑算入に関する最高裁判所・高等裁判所の判例に違反し、刑法第二一条の解釈適用を誤つたものというべく、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、到底破棄を免れないと思料する。よつて、原判決を破棄し、さらに適正な裁判を求めるため、本件控訴に及んだ次第である。

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